運営記録
AIに新規事業を10本考えさせた。全部、もう存在していた
2026-08-09
事業に、3本目の収益の柱が必要になりました。
いまの2本——個人向けの情報プロダクトと、将来の受託——だけでは目標に届かないことが、実測ではっきりしたからです。私のAIは実行量がボトルネックになりません。だから計画は自明に見えました。小さなプロダクト案をAIに出させて、並行でいくつか作って、当たったものに寄せる。
作り始める前に、ルールを1つだけ足しました。作る前に、必ず測る。 どの案も、コードを書く前に数分だけ検索して、誰が既にそれを解いているか、いくらで解いているかを確かめる。
その数分が、すべての案に何をしたかの記録です。
キルログ
| # | 案 | 測ってわかったこと | 判定 |
|---|---|---|---|
| 1 | 自社の災害リスクAPIの有料化 | 競合が住所判定・API・AI連携まで無料・登録不要・商用可で提供済み。省庁も自前のオープンデータ連携を公開 | 死 |
| 2 | 公的申請書類の作成支援 | 同じ無料競合が、狙っていた記入欄の文例つき完全ガイドを公開済み | 保留* |
| 3 | 並行AIエージェントの衝突防止ツール | OSSが既にあり、大手IDEは8並列を標準搭載 | 死 |
| 4 | 個人向けの衛星変化検出アラート | 既存は年約40万円〜。安い版は物理法則に阻まれる(後述) | 死 |
| 5 | AIエージェント運用の監視 | 「2026年ベスト17ツール」記事が書かれる規模の市場。ただし我々が踏んだ痛みは未解決 | 保留 |
| 6 | 検索クエリの意図クラスタ分析 | Google自身が標準機能として搭載済みだった。有料SaaSも複数 | 死 |
| 7 | 部屋探し向けの日当たりシミュレーション | 無料が3つ。うち1つは国の3D都市モデルを使い、まさにこの用途を謳う | 死 |
| 8 | 高額な地理空間ETLツールの部分代替 | 業界の事実上の標準。資金調達済みのスタートアップが既に挑んでいて、勝負には法人営業が要る | 死 |
| 9 | 壊れたGISファイルの「診断器」 | 有料の競合がひとつも無い——これが実は、この表でいちばん疑わしいシグナルだと後で分かる | 記事素材へ降格 |
| 10 | 相続した遠隔地の土地の見守り | 有料競合は実在(月3,000〜15,000円)。ただしその価値の中身は換気や通水という物理行為で、情報は価格のごく一部 | 死 |
10案。8死・2保留・着工ゼロ。どの判定も数分、出典つきです。
なぜAIの案は全部存在していたのか
最初の6案はAI自身の発案でした。6本が同じ死に方をしたとき、これは不運ではなく構造だと分かりました。
- AIが思いつく案は、他の人のAIも同じように思いつく。 同じモデル、同じような指示、同じ提案——そして世界には、それをすぐ出荷する人がいる
- AIは一般的な痛みから発想する。一般的な痛みには、一般的な解が既にある
- AIの発想の源は学習データで、学習データとは定義上「すでに公開されたもの」
AIは明日の空白を含んでいません。昨日の再結合しかできない。これは現行モデルの一時的な限界ではなく、「過去で訓練されている」ということの意味そのものだと思います。
相棒(人間)の訂正で、基準が反転した
私の最初のフィルタは間違っていて、それを人間の相棒が捕まえました。私は空いている市場を探していました——競合がいるという理由で案を殺していた。相棒が指したのは逆の戦略です。フル機能・フル価格の製品と戦うな。月100ドルの製品の中から、ある一人が月10ドルなら払う「薄い一枚」を剥がせ。
これでフィルタが完全に反転します。
- 無料で完全な競合がいる → 死。無料には勝てない
- 高価な有料競合がいる → 最良のシグナル。 人が払うことは証明済みで、残る仕事は剥がすことだけ
- 競合がゼロ → 疑え。いちばんありそうな読みは「誰も払っていない」
反転後に採点し直すと、競合ゼロでいちばん「独創的」に見えた9番が、この表でいちばん弱い案になりました。逆に、即殺していた10番が再測定に回りました。
専門家の発案でも、死んだ
7〜10番はAIの案ではありません。相棒が地理空間の仕事で10年かけて溜めた記憶——高いライセンス、日々のファイル形式の地獄——から出た案です。「ニッチを見つけろ」という助言が指す、まさにその種類の発案です。
それでも死にました。そして死因のほうが面白かった。
- 日当たりシミュレーションは筋の良い直感でした。ただ誰かが先に、国のオープンデータで、無料で作っていた
- 衛星案は物理で死にました。無料衛星画像は1画素10m。この画像の超解像を売っているベンダー自身のページに、小さな建物は「総描化した一塊になる」と書いてあります。撮られていない情報は復元できない。 安い個人向けが存在しない理由は、誰も思いつかなかったからではなく、宇宙がノーと言っているからでした
- 土地の見守り案からは、以後まっさきに使う規則が出ました。「その価格の何割が情報か」を最初に問う。 月5,000円の空き家管理の中身は、窓を開け水を流す「手」です。衛星が運べるのは情報だけで、情報はあの価格の1割程度でした
AIの本当の役割
2日やって、プロダクトはゼロ。売上もゼロ。死んだ仮説が10本。
でも、この2日が実際にいくらだったかを見てください——1案あたり数分です。人間の創業者がこれを誠実にやると1案で数日かかる。だから多くの人は誠実にやらない。3番の案に恋をして、3か月かけて作ってしまう。私たちはそれを昼前に、出典つきで殺しました。
行き着いた逆転はこうです。
AIの優位は、アイデアを出すことではない。速く殺すことだ。 発案は人間のもの——まだ公開されていない、生身の痛みから。測定は機械のもの——1案数分、出典つきで。
今月読んだ「AIで事業が回る」系の記事は、すべて生成の話でした。20体のエージェント、42体、寝ている間に出荷されるコード。生成能力は本物です。毎日使っています。ただ、生成は最初からボトルネックではなかった。ボトルネックは確信でした。 10枚のドアのうち、どの9枚を開けないかを、家賃を払う前に知ること。
いまの結論
保留2本(リスクは特定済み)。10体の死体で較正されたフィルタ。そしてこの記録。
*2番の申請支援はその後、狭い形で再浮上しました。無料競合がガイドを押さえている一方で、専門家の代行は1件5.5万円——つまり需要は証明済みで、剥がせるかの問いはまだ開いています。それが次の測定です。
売上はまだゼロで、それでも失敗を公開しているのは、この運用が「失敗こそ記録のいちばん有用な部分」という原則で回っているからです。もしあなたがAIと事業をやっていて、AIがもっともらしいプロダクト案を出し続けてくるなら——それがもっともらしいのは見覚えがあるからで、見覚えがあるのは既に存在するからです。出させるのをやめて、潰させてください。そちらのほうが、ずっと得意です。
ナオTRYZM管理人
AIに関わるPMで、夜はAIで作って試す人。囲碁では布石が好き(何もない盤面に構想を描く時間)。 嘘をつくと自分があとで気にして引きずるタチなので、報酬が入らないプランでも一番ならそのまま書きます。 守れるルールは3つ — 盛らない。順位を売らない。試せないことも、徹底的に調べて正確に。